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森下仁丹百年物語

第4章 将来の展望

生薬技術の再評価 - 新しい保健技術を拓く

仁丹はもともと当時の薬学の権威であった三輪徳寛、井上善次郎両博士の協力で生まれたもので、ほぼ110年近くに亘って販売している生薬製剤である。その仁丹の成分を、現在の科学の力で再度分析して、有効性についての科学的な裏付けをとることで、新しい生薬製剤の開発を含めた素材開発への展開を模索していこうとするものである。

甘草(カンゾウ)、木香(モッコウ)、甘茶(アマチャ)など、主だったものの分析・評価はほぼ終わり、学会での報告や特許出願が複数行われるなどの成果を挙げている。

その中で、現在当社が特に注目しているのは、甘茶である。甘茶はユキノシタ科の多年生植物で、仁丹の成分としては数少ない国産品。さらに、国内市場に流通する生薬の8割以上を当社が占めており、長野県には自社の栽培農園も有している。

もともと甘茶には口の中を清浄にし、咳を緩和し、胃腸病などにも効果があることが経験的に知られてきたが、当社の研究によって、抗ヒスタミン作用によって咳を抑えていたことが解明された。抗ヒスタミン作用は咳以外にもさまざまなアレルギー症状に有効であり、現在はアトピーに対応する商品開発などが検討されている。さらに、新たな抗アレルギー成分を含有するうえ、炎症や痛みの伝達物質にも拮抗(きっこう)することが分かった。

また、阿仙薬(アセンヤク)には、老化や発癌の原因とされる過酸化物を消去する作用のあることも発見された。このほか、生姜(ショウキョウ)や木香(モッコウ)には大腸癌発症予防効果のあることも明らかになっている。

今日、欧米式の新薬開発はひとつの限界を迎えたとする声が出ている。その中で、長年人間の経験と知恵によって培われてきた伝統の生薬技術、ひいては東洋医学を見直すこともまた、重要性を増している。